東京にはディズニーランド以外に出て来たことがないと言う、ど田舎の自分の友人は、東京でサラリーマンの街と言えば新橋で、飲み屋と言えば銀座、いやらしいことするなら歌舞伎町と思っている。
仕事帰りに銀座とか行くの~?
などとよく聞かれたものだ。
「いやいや、勤め先が池袋だから、わざわざ銀座にまで出ないよ」と答えると、
「えっ?新橋ってとこに会社があるんじゃないのっ?」と真面目に言う。
「皆が新橋に勤めてるわけないじゃん!」
「…ふ~ん。。」と言う感じである。
田舎の友人は、テレビドラマなどで観て知った「東京はこうだ」と言うイメージが根強く、原宿を歩いていれば、芸能界にスカウトされると思っていたりするほどである。
この友人が、何年も前になるが、国家資格試験を受験する為に、人生初の上京をすることになり、滞在する二日間は夕飯を共にする約束をした。
初日。上京記念?に、銀座の少し高級なクラブに飲みに連れて行ってあげた。
店のママに、田舎の友人を連れて行くと言うことを事前に伝えておいたので、とても綺麗どころの娘を席につけてくれたりと、本当によくしてもらった。
そりゃもう友人は喜んでくれた。
「田舎とは全然違う!ねーちゃんの質が違すぎるっ!こんなに違うのか!」
翌日は同じく銀座の割烹料亭に連れて行き、お座敷遊びを初体験させた。
「東京すごい!さすが銀座!」
大喜びだった友人が、帰り際になり、とても暗い表情をしてる。
「どーしたんよ?」
「俺、人生の半分もあんな田舎で生きてきただろ。なんかこれで良かったのかと、しみじみ感じたのよ。若い時にもっといろんなことすりゃ良かったなと。な~んにも知らないでジジィになっちゃったよ。お前は東京に出て、おっきな人間になったんだなぁ。。」と言う。
「そんなことねーよ。」
タクシーを停め、その足で歌舞伎町に連れて行った。
「エロい店に行くのかっ!?」
「ちげーよ。俺の知ってる歌舞伎町はここ。」
歌舞伎町のバッティングセンターに連れて行った。
小一時間くらいバットを振り汗をかいた。
その後、ぶらぶら歩いて「新宿ロフト」と言うライブハウスの前に連れて行った。
「ほら、ここ知ってるべ?お前が好きだったスライダーズも演っていたライブハウスだよ。」
「おお~っ!!」
友人の顔は、オッサンから、あの日に戻っていた。
いつも一緒だったあの日に。
「俺、お前が上京するって言ったから、見栄張って銀座に連れて行っただけだよ。ただの見栄。」
「…うんっ!!」
いくつになっても田舎の友人はいいものだ。
いつ会っても、いつ声を聞いても、自分の細胞を若返りさせてくれる。
文章・T