乗客は割とまばらな夜の電車の車内。
私は大抵ドア前のコーナーに立つのですが、その反対側のドアの前には丸めた新聞を片手に立ったまま寝ているメガネのオジサンがいました。
紺色っぽいジャンバーを軽く羽織った出で立ちで、身体はそれほど大きくはない普通のオジサン。
片方の手でつり革を捕み、上半身をグラグラさせて意識が遠のくと膝をカクッと落とし、その反動で一瞬目覚めてはまたきちんと立とうとしています。
よほどお疲れの様子…
立とうとするも、また数秒で意識は落ち「一人膝カックン」してはまたハッと気づいて起きる…
この繰り返しをしている内に、酷い時は1~2歩バタバタッとコケそうになるのをわずかに残った自意識でかろうじて「ハッ!」と立て直していました。
「完全に寝ている。いつコケるか解らないよこれ…」
と思っている内に次の駅に到着。
ドアが開く拍子にオジサンも多少意識を取り戻し立て直しています。
数人の乗客の入れ替えがあり、ドアが閉まる。
オジサンと向かい合うドア前の位置には大学生くらいのお兄さんが立ち、オジサンと大学生の真ん中くらいの位置…車内寄りに一歩下がった位置には新手の中年男性が立ちました。
私から見ると左からオジサン、中年、大学生、の並び。
今入って来たこの二人はオジサンが「眠りのダンスステップオジサン」だという事は知りません。
電車が動き出して間もなくすると早速オジサンのグラグラも発動。
徐々に始まるグラグラ&ステップに全く気付いてない様子の二人の新参者。
何度か小さい膝カックンに耐えるオジサンであったが…
…がしかし!
ついに完全に膝が崩れ後ろに半回転しながら倒れ出した!、、
突如として中年男性に振り向きながら、手には丸めた新聞紙!
倒れまいと抗う意識から振り回すのは名刀「新聞紙」!その切れ味はいかに。
"パンッ"
まず、崩れざま後ろに立つ中年男性を袈裟斬りで斬り捨て、
"バシンッ"
更に立て直そうと追加した半回転で大学生をも斬り捨てた!、
元の位置に帰るかのように"バタッ"と床に両手をつき、我が身に起きた事を把握出来ずに宙を見上げるオジサムライ、、
顔のメガネは斜めにズレている、、
「今…わし転びそうになった?」
周囲を見渡した後、何か納得を得た様子でフラッと立ち上がる。
「危なかった…。
ちょっと膝が折れて床に手を着いちゃったみたいだ…ふぅ」
と、何事も無かったかのようにつり革に捕まり元の定位置に。
「いや、…
いやいや……、
ふぅじゃ無しに。
オジサン無意識だろうけど、今あなたそこの二人を斬ったから、、
たまたま定位置に戻ったけど、
ここ一回転しながら斬ったんだから!」
この二人にしてみれば突然回転を始めたオジサンにいきなり斬られた訳で…
「オワッ!」「おおっ!」とだけ声を発した二人はいまだ状況を把握出来ない様子で固まったまま。。
それはまさに一瞬の出来事、
居眠りの呼吸、新聞斬り!!
いや…
「見事なものを見させてもらった…」
私は次の駅で降りる時、二人の肩をポンッと叩き
「フッ…真剣じゃなくて良かったな」
と言いながら降り…
…る事はしませんでしたが、
そんな気持ちにさせられたというお話しでした。
KS
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